もしデュマーリ島に初代が同行したら(3)
MISSION13
ルシアからアルカナを受け取った二人はひとまず遺跡を出ます。するとマティエが待っていました。
あんたの娘から預かった、と2様が渡そうとするとマティエは止めます。一人アリウスの元へ出向いたルシアを助けに行って欲しいと言うので2様は性懲りもなくコイントスを始めました。素直に受けてやれよと思いつつも水を差すのも悪いので初代は横で待っていましたが、それにしても2様はよく二人の母娘関係を見抜いたものだとそっちのほうが気になります。どこからどう見ても祖母と孫にしか見えません。あるいは師匠です。
いずれにしろマティエの頼みを聞くことになり、金貨、杯、ルシアの持ってきた短剣、そしてマティエが持ってきた杖の4つのアルカナを持ってルシア救出に向かう2様の後に続いて初代は言いました。
「よく娘だと分かったな」
「分からないならなるべく若く言うのが女への礼儀だ」
「ばあさんって呼んどいてか」
初代のツッコミに2様は少しの間沈黙しましたが、ぽつりと言います。
「…奥さん」
「そりゃいいな。ある層に人気が出るぜ」
2様は熟女キラーになりました。
さてウロボロス本社へ突撃しに来ましたが、予想に反して悪魔の襲撃もなくすいすいと歩けます。先に来たルシアが片付けていったということ…かもしれません。
そんなわけで社長室に直行すると、ルシアがアリウスに捕らわれていました。やはりアルカナを欲している様子(自分で取りに行けよと言いたいところですが)のアリウスに2様はそれらを放ると、剣を突きつけます。アルカナはともかく要はこいつを倒してしまえばいいのです。
アリウスはムシラやゴートを召喚して数で攻めてくるので面倒です。それでも初代はなんとかかいくぐって近づくと、アリウスがパチンと指を鳴らした直後に足下が歪みました。
「なんだ!?」
そのままずるずると地面に吸い込まれていってしまいます。すっかり地面の下へ消えてしまったのを見て2様はちょっと焦りますが、すぐに空間に現れた歪みからペッと吐き出されるように初代が出てきたので心の中で安心しつつもしっかりと諫めておきます。
「無茶に突っ込むな」
2様に叱られた初代は軽く手を振ります。一応反省しているのか援護に回るというので雑魚は初代に任せて2様はアリウスを狙うことにしました。社長、雑魚に戦わせて自分は悠々と座って酒なんか飲みつつ銃を撃っているのですからいい気なものです。
2様が容赦なくアリウスを斬り付け、逃げるのをまた追いかけて斬り付けている間にも後ろでは初代が何回かホイホイと吸い込まれている様子ですが、特攻隊長は頑丈なので大丈夫でしょう。
2様はアリウスをあと一歩のところまで追い詰めましたが、追い詰められたアリウスは人質のルシアに向けて攻撃を放ちました。驚きの反射神経で2様はそれを追い、すんでのところで弾いてルシアを救出します。
しかしその隙にアリウスはあろうことか今いるビルを爆破して逃げてしまいました。
煙と炎と崩れゆくビルの中で2様が呼ぶと姿は見えませんが初代が返事をしたので、無事を確認したあと2様はルシアを抱えて飛び立ちました。すぐ後に続いて初代も脱出します。
「あいつ、アルゴサクスの力がなんとかかんとかって言ってたが…」
「魔界の門を開くつもりだろうな」
アルゴサクスのことは知りませんがいずれにしろアルカナを使って悪魔を呼ぼうとしていることに違いはありません。
「あんなにあっさり渡しちまってまずかったんじゃないか?」
初代が訝りますが、
「何、あとで分かるさ」
2様は不敵な笑みを浮かべました。
MISSION14
「私はヤツに作られた」
自分は人造悪魔だというルシアの衝撃の告白にも2様は動じません。いい子っぽい女の子は助けて当然なので。
アルカナをアリウスに渡してしまったので儀式が始まると言いますが、太陽が隠れるまでは大丈夫だそうです(理屈は分かりません)。儀式の間はさっき脱出してきたビルのどこかにあるようですが見てきたとおりまともに入れそうにはないので別の方法を探すことにします。
「お母さんが心配してたぜ。顔見せてやんな」
初代がルシアに言いました。
母娘のことは当人たち水いらずでやってもらうこととして、2様と初代が改めて辺りを見回してみると市街地の雰囲気は夕刻の頃に来た時とは全く異なっており、構造までも変わっています。
「魔界の浸食が進んでいるな」
「じゃあこの浸食を辿っていけばその中心地に着くかもしれねえってことか」
初代の言葉に2様は頷きました。ということで一緒に探索していきます。
ところどころ青白い繭が貼り付いたような道を歩いていくと、2様が何かに気づいたようで上を見ます。かなり高く、屋根の更に上空にスフィアが見えましたが同時にそれを邪魔するかのようにゴートが現れました。
「上を頼む」
スフィアは初代に任せ、2様はゴートにロックオンします。ゴートは上空から遠隔攻撃をしてきますが的が大きいだけにミサイルランチャーの格好の餌食です。初代が屋根の上に登るのに苦労しているうちに二匹を倒し、追って出現してきたのも黙々と撃っていきます。ようやく初代がスフィアを発動させて戻ってきた時には綺麗に片付いていました。
「遅いぞ」
「空中にあると大変なんだよ」
口を尖らせる初代に2様は何か言いたげな顔をしましたが何も言わずに先へ進みます。
そのまま街を回りながら広場と入り口付近にあったスフィアをそれぞれ発動させて、最後は初めて来る場所に辿り着き、またもや上空にぽかんとスフィアが浮かんでいました。それを叩く前に周囲に湧くネクロマンサーの魔法がうざいので先に片付けます。
すると2様が「見てろ」というようにちょいちょいと初代を呼びます。そしてスフィアに向かってエアハイクし、空中キックを2発入れたあとに兜割りという計3発を叩き込む神業を見せます。人間離れしたアクションにさすがの初代も感心するよりも先にぽかんとして見ていました。初代よりも遙かに短い時間でスフィアを発動させると奥の扉の封印が解ける音がします。
感想を求めるように「どうだ」と言わんばかりの顔をして見てくるので初代は肩を竦めました。
「なんでもありだな」
「素直に褒めたらどうだ」
「うるせーよ」
ツンデレ発揮です。
封印の解かれた先の広場は異様な光景でした。中央には植物のように生えた大きな目玉と、そこから張り巡らされている根が地面を走っています。強い魔の波動を感じるその目玉を一薙ぎすると光が空を貫き、なんと懐かしい姿が空から降ってきました。巨大な蜘蛛の悪魔、ファントム(と同じ顔)です。
しかし2様と初代は揃って首を傾げました。
「…かすかに見覚えがある」
「名前は何だったかなー…そういえば小さいのがうじゃうじゃいたが、踏み潰し損ねたか」
随分大きくなったなあと感慨深そうな初代ですが、当のファントム(?)は癇に障ったのか襲いかかってきました。
「ここは俺に譲ってくれるか?」
因縁の戦い再び、前へ出る初代に譲って2様は下がります。
ファントム(?)の攻撃パターンは経験済みですがあの時とはちょっと変わっているようです。時々マグマを噴火させつつも火炎はあまり吐いてこないので弱点の背中を狙わずとも顔を正面からひたすら斬りつけることができます。適度な距離を取って後退する初代に走り寄ってくるのがなんだか可愛らしく思えてくるほどですが、それはそれとして接近戦でがんがん攻撃を加えていきました。
「そっくりさんだな。こんなにヤワじゃなかったぜ!」
得意のスティンガーを決め、かつての宿敵をあっさりと一蹴してしまいます。
あと2回くらい追っかけて来たら見直すけどな、と初代は苦笑して付け加えておきました。
MISSION15
ファントムそっくりさんを倒しましたが特に変化は起こらず、とはいえ入ってきた扉には封印が施されてしまっていて外に出ることもできないので、ひとまずもう一度真ん中の目玉を斬ってみます。すると地面がイソギンチャクのように割れて光の柱が出てきました。
また何か落ちてくるのかと見守っているとそうではなく、普通に雑魚が湧いてきます。
「ひょっとしたらループじゃねえだろうな」
「いや、見ろ」
敵を倒しつつ2様が初代の視線を中央へ促します。
「少しずつ光が強くなっている」
「まさか、こいつら倒す度にか…?」
「だが途絶えると弱くなるようだ」
つまり素早く倒し続けろということです。2様の観察力は並じゃありません。
ムシラとデモノコーラスを一掃したかと思えばゴートが次から次へと出現し最後にはムシラとゴートとデモノコーラスのバーゲンセールですが、デモノコーラスは真っ先に全滅させ、ゴートは惜しまず魔人化して、最後にムシラを丁寧に片付けていきます。
「よし、こっちは全部片付いたが…」
「うまくいったようだな」
地面は光を放ちながらぽっかりと口を開けていました。ここから強い魔の波動を感じるので元凶はこの先かと思われます。虎穴に入らずんば虎子を得ず、アリウスの儀式が行われる前に止めるためには飛び込むしかありません。
さて、と初代は2様を見て言います。
「上手くいけばここからラスダンってやつか」
「そうだな。今のうちに俺に言っておきたいことはないか?」
「あぁ?…ねえよ」
「じゃあ俺もない」
じゃあってなんだよそれ、と初代は呆れたような顔をしていましたが、すぐに2様は「いや、」と言い直しました。
「やはりひとつだけあるな」
「な…なんだよ」
肩を掴まれ、正面から改まって言われて初代は少しだけ声が小さくなりました。2様は思わせぶりに一呼吸置いて言います。
「迷子になるんじゃないぞ」
「……ならねえよ」
うっかり普通のツッコミをしてしまいました。
が、すぐにキリリと顔を持ち直して「その時は道連れにしてやるからな」と言い返す初代に頷いて2様は颯爽と光の穴へ飛び込んでいきます。
「ったく、ほんと何考えてんのかわかんねえ奴…」
そして本音を零しつつも初代も後に続きました。
MISSION16
ペッ!と吐き出された場所はどこか建物の中です。
「ビンゴだな。ウロボロス社だ」
プレイヤーは初めて見る空間ですが二人は来たことがあるので初代が解説しておきます。
早速出てきたゴート計6匹を倒してエレベーターに乗り、所狭しと湧いてくるフィニスも豪快に蹴散らして上がっていきます。廊下にある高そうな壺を壊しながら進んでいき少し開けた場所に出ました。
奥に光るものが見えるので歩いて行こうとしましたが、突如部屋の奥からいつか追いかけられたのと似た紫色の大きな球が2つこちらへ転がってきました。横に避けますが次から次へと転がってきてしかもどんどん隊列が複雑になり、遂には4つも転がってくるのです。
「!」
「うお!?」
避けきれずぶち当たってしまいました。
とはいえ潰されるわけではなく、いきなりどこか別の空間に飛ばされてしまいました。
「どういう仕掛けだよ…」
初代がうんざりした顔をしています。そこには円盤を投げてくる一番うざいフィニスとゴーレムが2匹いましたが、ゴーレムを倒せば空間を脱出できました。
「よし、気を取り直していこうぜ」
初代が気合いを入れます…が、空回りしたようでガッツリ当たって2様もろとも飛ばされました。
「……。」
「…悪ィ」
むっつりしている2様を宥めつつ再びゴーレムを倒して戻ってきます。今度こそ慎重にいこうということで初代は球の当たらない部屋の隅っこで待機してアイテムは2様に取ってきて貰うことにしました。2様は丁寧にかわしながらようやく『神への冒涜』という心臓の形をしたアイテムを手に入れて戻ってきます。
「お疲れさん」
初代の出迎えに2様がちょっと和んだところで先に進みます。この部屋に入ってきた扉に『神への冒涜』を嵌めて開けたところ、先程とは様子が変わっていました。
さっきは無かった分岐点を進んでいき、なんだか壁一面に血管が張り付いているような気色悪い道を行くと、広間に現れたのはまたもや白い狼二匹を連れたボルヴェルグです。
「よう、前に言ったよな。今回はあんたがワンちゃんの相手だぜ」
「…思うんだが、犬は放っておいてもボスを倒せばいいんじゃないか」
「だめ」
「……。」
初代にピシャリと断られて渋々2様はフレキとゲリの相手をします。
一方初代はボルヴェルグと対峙しました。やはり簡単には背後に回らせてはくれないので攻撃の隙をついて正面から叩きます。相変わらず相手のリーチは長いわしつこく追ってくるわでなかなか強敵であるものの、予備動作は分かりやすいので避ける時間はあります。そのうちに狼を倒した2様が合流し援護してくれて、殆どの銃は効かないため2様のミサイルランチャーでガードを崩したその時に初代がキック13を叩き込みました。なんとなく骸骨に打撃系は効きそうな気がします。
二度の戦いを経てついにバラバラと砕け散ってしまったボルヴェルグとお別れです。魔人化から戻った初代は満足そうに言いました。
「俺たち良いチームワークだな」
「ああ」
初代が嬉しそうだったので2様も嬉しそうに頷きました。
広間の中央にまた『神への冒涜』が落ちてきたので先程と同じように扉に嵌めて進みます。さっきよりももっと魔界の浸食が進んでいてもはや建物には見えず、レッドオーブを追って出た部屋は血管どころか内臓のようなものまでついていました。ここではデモノコーラスとアビスゴートがお出迎えです。ゴート系最強のアビスゴートはなかなか怯まないのでミサイルランチャーやグレネードガンを使いながら殲滅すると、三度『神への冒涜』を手に入れました。
「大体こういうのは3つで最後だよな…ってちょっと待て、向こうにも扉があるぜ」
初代の言うとおり、『神への冒涜』を嵌めるべき扉の反対側にも扉があります。
「寄り道する必要はない」
行くぞ、と2様は三度『神への冒涜』を使って戻ります。その先はもう殆ど魔界のようなもので扉くらいしか原型がありません。
…そしてしばらく、同じところをぐるぐると回る羽目になりました。
扉を開ければ見覚えのある道しかなく、かと言って新しい道には何もなく、一応は急いでいるというのに完全に迷子となりました。さすがに初代が口を開きます。
「おいおい…一回来たことあるのになんで迷うんだよ」
「仕方ないだろう。一回目は省略されているんだぞ」
「それを言っちゃああんた…」
言いかけて初代はハッと何かに気がつきました。
「さっき俺が言った扉あったろ」
あそこだよ!と初代はボルヴェルグと戦った部屋まで2様を引っ張っていきます。そして『神への冒涜』を嵌めた扉とは正反対の何の変哲もない扉を開ければそこはエレベーターでした。早速乗り込んで、湧いてくるフィニスを倒しながらの家族会議です。
「ほら見ろ、こっちが正解じゃねえか!」
「ならあのアイテムは何だったんだ。あの流れじゃ普通は使うだろう」
「知らねえよ。上手くひっかかったんだ」
「……。」
そんな理不尽な引っかけがあったなんて2様ショックです。(ちなみにあれは一周目にフロストハートを取りにいくためのルートでした)
しかし落ち込んでいる暇もなくエレベーターが到着したので2様はずんずんと歩いて行きました。ありゃご機嫌斜めかなと思いつつ初代もそれに続きます。
エレベーターを降りて一直線の扉を開けるとそこは少し前に脱出したばかりの社長室が何の変わりもなくありましたが、2様が入ってすぐ背後でバタンと扉が閉まる音がしたので振り向けば初代の姿はなく、扉は封印されてしまっています。
扉の外にいるはずの初代に呼びかけようと思ったところ、何かの気配とともに社長室の雰囲気が一変しました。2様の立っている足場のほかには何もない異空間、その虚空から現れたのは老人のような3つの顔が合体した気持ち悪い悪魔トリスマギアです。
珍しく喋る敵のようでスパーダがどうのこうのと言っていますが、2様はさっきの迷子の腹いせかそれとも初代と離れ離れになったせいなのかやっぱりご機嫌斜めらしく、
「黙って死ね」
とだけ言い放って銃を撃ちます。2様にとって喋っていいのは俺たちダンテだけなのかもしれません。
トリスマギアは3体に分離し、それぞれ代わる代わる近づいてきては炎を吐いたり霧を吐いたり電気を吐いたりしてきます。分かれているときはどれか1体が弱点なのでそれを探して撃ち、3体が合体した時を逃さず魔人化して一気に撃ちまくります。それを二回ほど繰り返せばトリスマギアは何も言わずに散っていきました。
「おい、無事か?!」
もとの風景に戻り、封印が解けた扉を勢いよく開けて初代が飛び込んできました。2様は「ああ」と返事をします。
「お前のほうは」
「いや、何も。あんたがそっちで戦ってるんだろうなとは思ったが」
「心配したか?」
「ああ、また迷子になってんじゃねえかとか、モスラが出てきて泣いてるんじゃねえかってな」
「……。」
むっとしてみせる2様(といっても顔はいつもどおりですが)に初代は小さく肩を竦めました。
「…心配しないわけないだろ。あんたがやられるとは思ってねえけどさ」
「そうか」
2様はちょっと嬉しそうに言うと初代を引き寄せて軽くハグをします。
「わっ、よせって」
初代はちょっと照れています。
そうしてお互いの無事を喜んだあと、部屋の中央に現れたワープゾーンからいよいよ社長との決戦に向かいました。
MISSION17
社長室から繋がっていたのは儀式の間でした。ちょうど儀式が始まろうとしていたところだったので初代が止めに入ろうとしましたが、2様がちょっと待てと制します。面白いことになるというのでこっそり見ていることにしました。
2様の言ったとおり、途中までは絶好調で悪魔の力を手にしたかと思われたアリウスですが、何かの異常に気がついたようで狼狽え始めました。
「どういうことだ…?」
初代が小声で尋ねると2様はポケットから一枚のコインを取り出して見せました。それは最近2様がしきりに投げているコイン…ではなく、アルカナの金貨です。アルカナをアリウスに渡した時にすり替えていたのです。
ここで二人は颯爽と前に出てネタばらしをし、怒ったアリウスと最後の戦いです。
以前戦った時と同じように雑魚を従えていますが、ムシラのほかに人造悪魔である秘書もいてこれがなかなか素早くて手強いです。さすが量産型ルシアだけあります。
「人間が悪魔をハンドメイドしちゃあ世も末だな」
初代が静かに憤慨しつつもイフリートを準備してやる気満々です。
「憎まれっ子世にはばかると言うからな。昔からそういう人間はいるさ」
半人半魔のダンテにとっては複雑ですが、そんなことを言っていては今時デビルハンターなどやっていられません。
それはさておいて今は、相変わらず余裕こいて遠くで見学しているアリウスを追いかけねばなりません。秘書は人造悪魔とはいえさすがに本物の悪魔と違って物理的な攻撃しかせず、初代が本気出してオラオラしてくれている間に2様は一直線に社長を狙います。それでも雑魚の邪魔は入りますが構わず黒幕だけを叩いて、傍から見れば弱い者いじめにしか見えないので心が痛みます…というわけでもありません。
追い詰められたアリウスが往生際悪くわあわあ叫んでいるのを2様は容赦なく狙撃しました。撃たれたアリウスは豪快に壁を突き破って落ちていきます。それが社長の最期でした。
「…派手な退場だったな」
やってきた初代にご苦労様と言って2様も一息つきました。任務完了です。
これでウロボロス社はその野望共々壊滅し(というか社長以外見たことありませんが)デュマーリ島も平和になるに違いありません。
「うっし、帰るとするか」
「そうだな。それともせっかく二人きりだし観光でもしていくか?」
「この島が元通りになるのはこれからだろ。ま、その時に来ようぜ」
だいぶ壊しちまったしな、と笑う初代に2様もそれもそうだと同意します。墓所とか街とかビルとか色々暴れてきたので後で請求されなければいいのですが。とにかく二人で旅行する約束をしたことだけは覚えておこうと2様は心に留めておいて、ルシアのこともちょっと心配なので報告がてら顔を出してから帰ることにしました。
MISSION18
ビルの外ではルシアが待っていました。アリウスが倒されたことは分かっているようですが、今度は自分を殺せと言ってきます。得体の知れない自分がいつか人を襲うかもしれないとルシアは懸念しているのです。
2様は静かに聞いていましたが初代が口を開こうとしたその時、一条の光が空からビルを貫き、ちょうど空間に穴が空いたように巨大な歪みを作り出しました。
不完全だったはずのアリウスの儀式が何故か今になって成功してしまったのでしょうか。どうせ帰れなくても構わないから私が行くと言いつつ涙を流すルシアの頬を2様は拭います。悪魔は泣かないし2様はジェントルマンです。見守っていた初代が言いました。
「俺たちに任せな。魔界なら何回か行ったことがある。なあ?」
2様も頷きます。まあ帰り道間違ってこんな時代に迷い込んじまったけど、と初代はあっけらかんと笑いました。
「でも…!」
「なら、こうしよう」
なおも譲らないルシアに2様が取り出したるは皆様ご存じのコイン(自前の)です。三度目のコイントスも表、というわけで2様と初代が行く結果になりました。
マティエからスパーダの話を聞く機会も2様がマティエを奥さんと呼ぶ機会もなくなりましたが、必ず戻ってくる意志としてコインをルシアに預け、二人は魔界への入り口に向かいます。
「…あんた、少し前になんか一生懸命彫ってたのはあのコインか」
初代がこっそりと言うと、
「暇だったんでな」
2様は涼しい顔で答えました。今更ネタばらしもありませんが何を隠そう、2様が何度も用いていたのはなんと両面に店のロゴを彫り込んだ手作りのインチキコインだったのです!!
「かっこつけやがって」
「いけないか?そのために作ったからな」
恥ずかしげもなく言ってのける2様に、綺麗な顔してやっぱこいつ俺だわと初代は思いました。
「それとも、お前が気に入らないなら改めるが」
「あ?好きにやれよ。あんたがコイン投げようと胸元開けようと俺は関係ないね」
初代のツンが始まりましたが既に魔界に突入した目の前には大きなボスが待ち構えているのでいつまでもじゃれ合っているわけにもいかず、ひとまずは悪魔退治に専念です。
目の前に蠢いているのはこれまで見てきたボス敵がごっちゃになってひとつに固められた塊でした。アルゴサクス・ザ・ケイオスの名の通りまさしくカオスなやっつけ方です。2様はいつかトーキョーで見たもんじゃ焼きを思い出しましたがこれは食べられそうにありません。その横で初代は塊の一部、なぜか巻き込まれているグリフォンを見つけて驚きを隠せません。
「あいつ、散々だな…」
ちょっと可哀想になってきました。
2様は時計回りに、初代は反時計回りに回っていくことにして戦闘開始です。単純労働ですが遠くからミサイルランチャーを撃っていくのが一番確実で安全です。巨人を倒し、大猿を倒し、ファントムそっくりさんを倒したところで反対側から回ってきた初代と会いました。向こうはグリフォンと牛とタコを葬ってきたらしいですが全部安全地帯から立って撃つだけだったと少しばかり不満そうです。
すると動かなくなった塊の中心から芽のようなものが伸びてきたと思いきや、羽と角を持つ赤い人型の悪魔が生まれ出てきました。これがアリウスの言っていたアルゴサクスの本体でしょうか。
アルゴサクスは突然姿を消すと一瞬にして目の前へ現れて鞭のように伸びる腕を叩きつけ、二人は瞬時に左右へ飛んで避けました。こちらの攻撃には全く怯む様子がなく、銃で援護して突っ込む戦法もできないので魔人化する以外はエボアボをひたすら撃ち続けることにします。瞬間移動と鞭のような剣のような攻撃がとにかく速く、合間に斬り付けようにもすぐに反撃をされてしまうので2様はクロノハートを装備しました。敵は地上からもしくは空を飛びながら光弾も撃ってきます。激しい攻撃をうまく避けながらも2様は魔人化するとマシンガン並の連射をし、初代も負けじと弾丸に魔力をバリバリいわせ、まさしく弾幕です。
地道に追い詰め、既に勝敗は明らかとなった時に2様は初代に目配せをし、初代も銃を収め剣に握り替えて二人はアルゴサクスに向かい交差するように駆け出しました。弱りながらも迎え撃つべく伸びてきた悪魔の腕を剣で受け、その反動を利用して高く跳ぶと同時に剣から手を離します。目の前から消えた姿に悪魔が気づいた時にはその頭に二丁の拳銃が突きつけられていました。
「ジャックポット」
息の合ったお決まりの台詞と共に放たれた二人分のフルパワーの弾丸を浴び、アルゴサクスは粉々に砕け散っていきました。
今度こそ、この事件は終幕です。
「…久しぶりに言った」
心なしか清々とした様子で2様は銃を下ろします。無口になったおかげで決め台詞までご無沙汰だったようです。
「本当か?一番かっこつけるところだろ」
くるくると銃を回しながらホルスターに収めて初代も言います。とはいえ確かに自分一人しかいない時に決め台詞をキメてもしょうがありませんが。
剣を拾い、ぐるりと初代は辺りを見渡します。魔界にしてはまともな景色ですが、道はわかりません。
「さてどうする?出口の見当はつかねえが」
「見つかるまで探すさ。…ちょうどあれもあるしな」
2様の視線の先には何度かお世話になったバイクが転がっていました。ビルの近くに乗り捨てたものが、魔界の穴が空いた時に巻き込まれたのでしょう。2様はバイクに跨がり、その後ろに初代も飛び乗りました。
「じゃ、行ってみるか。魔界デートも悪くないかもしれねえ」
なあ?と後ろから身を乗り出す初代に2様も「刺激的だな」と笑って返します。
「しっかりつかまれ」
まさか二人で父親の故郷をツーリングすることになろうとは。
勢いよくエンジンをふかし、バイクは走り出しました。
EPILOGUE
あれから翌日の夜なのかあるいはもっと経っているのか、とにかく辺りは暗くネオンサインも消えた事務所の前にエンジン音を立ててバイクが乗り付けられました。
「…さて、見たところはあんたの家と同じように見えるな」
止まったバイクの後部座席から降りた初代が事務所を見上げ、2様もよく見慣れた家を前にして頷きます。初代がそうであったようにどこか別の時代に迷い込んで、中にはよく似た銀髪の男が…なんて可能性もあったのですが、初代の事務所より少しばかり年月が経っている汚れや壊れていない壁は数日前に見た2様の事務所と変わりません。
すると、勢いよく玄関が開きました。
「ダンテ!」
中から飛び出してきたのはルシアです。わざわざここまで来て帰りを待ってくれていたようで、2様は駆けつけてきたルシアの頭をぽんぽんと優しく撫でました。
「ということは、無事に戻れたみたいだな」
「ああ」
父娘のような二人を微笑ましく見ている初代の顔はここが自分の時代ではないにも関わらずとても安心しているようでした。
ルシアを見送って、玄関先で肩を並べた二人はようやく一息つきます。
「なかなか面白い仕事だったな」
部屋の中に入りながら初代が大きく伸びをして言いました。悪魔の危機から島ひとつ救ったとなれば気分もよくなります。
「そうだな。…だが、まだ終わっていないぞ」
2様の目がきらりと光りました。
「!?っうお!」
ガキン、という金属音の刹那には、初代は床に尻餅をついて2様に剣を向けられていました。
「いきなりなんの真似だよ!」
しかし初代のほうもあの一瞬の出来事の中しっかり2様に対し銃を向けています。
「ああ、悪かったな」
不敵に微笑みつつ見下ろしている2様は剣を引っ込めたかと思いきや、倒れている初代へ覆い被さるようにずずいっと迫ってきました。ただならぬ雰囲気に初代は銃を上げたまま後ずさりしていきますがじりじりと追い詰められ、ついには壁に背が当たってしまいます。
「おい、何…」
「お前が言ったことを覚えているか?」
「はっ?」
「”待つのは嫌いだ”と言ったろう」
ちなみに第四話参照です。
「…言ったけどあんたが言ってる意味では言ってないから気にしなくていいぜ」
よく覚えてやがったなと初代は半分呆れますが今はそれどころではありません。最近は熟年カップルのようにほのぼのしていた二人ですがこれは久しぶりの押し迫りです。
はあ、と2様は小さく溜息をつきました。
「お前の本音はどこにあるのか分からない」
「あんたこそ何考えてんだかさっぱり————!」
初代が言い終わらないうちに口は口で塞がれてしまいました。
2様にとってのラスボスは初代なのかもしれませんが、それは初代もまた同じ。攻略するのはなかなか難しいようです。
ひとまずここをなんとか切り抜けようとする初代と、今日はもうちょっと押してみようかという2様の、二人だけのミッションが人知れずスタートしたのでした。
Fin.