Congratulations!
※まだ二人がくっついて間もない頃の話です。
さすがの二代目も戸惑いがないわけではなかった。
「若い頃の自分」が3人ほど時空を超えて転がり込んできたことに、ではない。そのうちの一人、周りからは初代と呼ばれているダンテに自分は特別な好意を持っているらしいと気づいた時に、である。
相手が相手だけに自分の正気を疑ったこともあった。しかし二代目もいい歳だから、自分を含めて冷静に見られるようになるのが大人というもの。そうして改めて初代のことをよく見ているとその言動のそこかしこに自分と同じ想いがあるように見えて、それならばと進む覚悟を決めた。
若さ故の自尊心からかなかなか認めようとしないのを半ば強引に説き伏せ、ようやく首を縦に振った初代と二代目は晴れて恋人同士になったわけだ。
「だからって何なんだよこれは」
まだ誰も知らないその関係を始めてしばらくしたある日の午後。二人でソファに座ってのんびりしていたところに、不満を隠そうともしない声音で初代が言った。
「何が」
大体予想はできているものの二代目は彼を見ることすらせずしらばっくれる。
「おかしいと思ってねえんなら言ってやるよ。普通は野郎が野郎にこんな近づかねえ」
「普通だとは思っていない」
「それとこれとは別だろ」
自分で言っておいて矛盾している奴だ、と二代目は苦笑する。要はくっつきすぎと言っているのだろうが、こちらはそのつもりなのだから当然である。
まったく、と距離を取ろうと端に寄る初代のあとをついて二代目も寄っていった。
「おい…」
「いつからお前はそんなに細かいことを気にするようになった」
「あんたはいつからそんなにベタベタするようになったんだよ」
呆れたように返されて二代目は少しだけ考える。
確かに両者ともどちらかと言うとドライと言われる類だったが、二代目は彼といるとき自分にもまだこんな感情が残っていたのかと思うような発見が多かった。人は変わるものというべきか、あるいは歳を取ったからこそこんなのでも可愛いものと思えてしまうのかもしれない。
だがそんなことを言うと血気盛んな初代はますます納得しないだろうから、とりあえず宥めることにする。
「家の中でくらいいいだろう」
「家ん中っつったって…」
「…さすがにそれじゃあ見て見ぬふりは難しいんだよなあ」
すると初代の文句を遮って別の声が降ってきた。
見れば階段の上、遅い起床を果たした若者が苦笑しながら二人のやりとりを見ていた。3とか三代目とか坊主とか呼ばれている一番年下のダンテだ。
家の中での第三者の登場に、ほら見ろと初代は咄嗟に立ち上がろうとするが二代目はその腕を掴んで制止する。三代目の口ぶりからすると今更どう繕おうと遅いようだった。
「気付いていたのか」
二代目が問うと、まあなー、と大きく伸びをしたあとで階段を降りてくる。まだまだ子供だと思っていたのに意外と勘が働くらしく、一体いつ頃から気付いていたのか興味があるところだが、一方で初代のほうは参加拒否のつもりか知らない振りを決め込んでいた。
「二代目、最初の頃と少し変わったからさ。特に初代が来てから」
「俺が?」
「そ。なんつうか、よく笑うようになったっていうか」
そうだったろうか。二代目には自覚はないが、そういえば三代目は最初にこの世界にやって来た。二代目だって別にいつも怖い顔をしているつもりはなかったものの、彼とはしばらく二人きりで生活していたのだから、何かしらの変化は一番感づきやすかった人物かもしれない。
寝癖をつけた髪をがしがしと掻きつつ三代目はニッと笑って言う。
「俺も最初はびっくりしたけどさ、あんたら本人がいいならいいんじゃねえの。楽しそうだし」
若いながらなかなか物分りのいい奴だ、あとでピザを奢ってやろう。
などと二代目が思っていると、隣で無関係を装っていた初代が身を乗り出した。
「…おい3。4に言ってねえだろうな」
「あ、この前あんたらどうなったって聞かれたから言っちまった」
即答されて初代は頭を抱える。
「聞いてきたということは、あいつも知ってたのか…」
「バレてないと思ってたのは本人たちだけだったってこと。こっちはあんたらがいつくっつくか賭け…いやなんでもない」
初代の鋭い視線を感じて三代目はぱたぱたと手を振る。
どうやら思っていたより周りが見えていなかったのは当事者のほうだったらしい。家にいないことのほうが多い四代目だが初代とはよく飲んでいるから、あまり初代をいじめてやらないよう釘を刺しておこうと二代目は決意した。その横で大きな溜息をつく恋人を慰めるように、ぽんと肩に手を置く。
「何、もとから隠すのは無理だったんだ。このほうがやりやすいだろう」
「あのな。あんたは隠す気見せてから言えよ」
「まさかずっと隠し通すつもりだったのか?」
「そうじゃねえけど…」
初代は渋々諦めの表情を見せる。バレたことに対してというよりは、知らず知らず表に出していたらしい自分に対して悔しがっているようだ。
それとは対照的に周囲の公認を得て晴れやかな二代目は、初代の肩に置いていた手を移動させるとさりげなく腰に回した。が、
「だからって調子に乗るな!」
やはり相変わらずな初代の右ストレートを寸でのところで避け、続く応酬。
これから面白くなりそうだ。
本人含めダンテたちはまるで他人事に思いながらも、それはそれは暖かく、この恋の行方を見守っていくのだった。