素直じゃないお前に

退屈なんて感覚はそろそろ麻痺してもいいんじゃないかと思えるくらい当たり前になった午後。
俺はいつものように黒檀の机の前に座り、年下のダンテはソファに寝転がっている、これもまたいつもの風景だ。じっとしていられないらしい一番年下のは少し前に何処かへ繰り出して行った。

昼寝するほど眠くもないし、これといって読む雑誌もない。ダンテは眠っているのか静かに目を閉じているから話相手もいない。
それなら最近使っていない銃の手入れでもしてやるか。

「あんたってさあ…」

椅子から腰を上げかけたその時、寝ていると思っていたダンテが独り言のように呟いた。
今ここにいる「あんた」は俺しかいないから、俺は立ち上がるのをやめて視線で続きを待つ。あっちは目を閉じたままで俺を見ていないが。

「…やっぱなんでもない」

しばしの間を置いて出てきた答えがそれか。

「なんだ。気になるだろう」
「嘘言えよ。あんたが気にすることなんて悪魔以外あんのか?いや悪魔もカスみたいなもんか」

思ったことそのまま言ったら軽く笑われた。
確かに俺はよく人から、つまらなそうだとか何も興味なさそうだとか無愛想だとか話聞いてる?とか言われるが。実際他の誰かに今みたいに「なんでもない」と言われたら一瞬で忘れることも確かだが。
俺は立ち上がってソファのほうへ近づくと、両腕を枕代わりに寝転がるダンテのちょうど腰のあたりに浅く座った。
ソファの背もたれと俺に挟まれて幾分窮屈になったダンテはなんだよ、と言いたげに目を開ける。

「お前が俺のことをどう思って何を考えているかは、他のどれより非常に気になるな」

言いながら俺は手を伸ばして彼の長い前髪を分け頬を撫でる。
するとダンテはその手を掴んで引き剥がしたかと思えばキッと睨み付けてきた。

「だからこういうのやめろって!」
「こういうのとは?」
「だから、なんつーか…ガラじゃねえだろっつーか…ああもうなんでもねえよ」

またなんでもないか。
けれども諦めたようにプイとそっぽを向いてしまうダンテを微笑ましく思った。
要するにこういう風に好意を寄せられ触れられることに慣れていないのだ。それでも俺くらいの歳になれば幾分許容値も上がっているが、こいつはまだまだ若く男として一番かっこつけたい時期だ。
だからこその反応が楽しいんだがな。と言うとうるさく罵られるので言わないが。

「そうやってお前は今までどれくらいの言葉を俺に言わないまま飲み込んだんだ?」

意地っ張りで負けず嫌いなダンテは何かと俺に構うことを渋る。俺としては遠慮なく絡んできてほしいのだが、それが悔しいのかなかなか素直に自分を曝そうとしてくれないのがこいつだ。

「知るかよ」
「…なら直接訊くか」

案の定な答えに笑いつつ俺は彼のほうへ顔を寄せる。さっきは引き剥がされた手も今度は無事に頬に添えたまま許された。それは次の行為への承諾の証だ。
軽く数回触れるだけの口付けを落として、やがて食むように唇を奪い合う。深くはないが確かに互いを感じられる暖かいキス。
ちゅ、と音を立たせて離れると、少しだけ口の端を吊り上げてダンテが問う。

「…で、分かったわけ」
「そうだな…俺のことが大好きだということは分かった」
「うわあ…」
「否でなければ是。お前が言わないなら俺が決める」

それが嫌ならちゃんと直接俺に言うことだな。
上からニヤリと言ってみせれば、ダンテはフンと鼻をならして笑う。どうせこいつは元からそんな気はないのだろう。

結局最初にダンテが何を言おうとしたのか分からず仕舞いだが、無言で回されてきた腕に誘われて俺はまた顔を寄せた。
言ったそばから、つくづく俺もこいつには甘いのだと思う。

…ああ、甘いものは大歓迎だ。