それはほんの些細な -2様編-
事務所はいつも賑やかだ。
俺は静かだが、他にお喋りな同居人が3人もいれば当然騒がしくもなる。
とは言え俺もうるさいのは嫌いじゃない。かつてのお喋りが言うのも何だが。
俺は定位置の黒檀の机の前に座って適当な雑誌をめくる。
相変わらず電話は鳴らず、たまに鳴ってもろくな仕事が来ない。
3は朝から出かけていった。同じく暇を持て余している4とあいつは、談笑しながらビリヤードで遊んでいる。
あの二人は気が合うらしく、よくつるんで飲んで騒ぐ。
飲む時は俺も時折参加するものの当然あいつらほど騒がないから、騒ぎたい時は二人で飲んでいる。楽しそうなのは結構なのだが度が過ぎて事務所が酒屋のようになることもしばしばあり、その度に俺が雷を落としても一向に懲りないから困ったものだ。それで次の日は二日酔いで両方ダウンしているのだから尚更見苦しい。
いい歳していい加減落ち着いたらどうだと4に言ってやっても、今のうちに騒いでおきたいんだよ、なんてまるで俺がつまらなそうに生きているかのように言うから心外だ。これでも毎日楽しく生きている、とそれとなくあいつに視線を移せば何故か目を合わさないように逃げていくから気に入らない。
一日の半分が過ぎた頃、3が何やら騒ぎながら帰ってきた。
大方、またバージルに負けたとかそういうのだろう。悔しそうに掴みかかってくる3をあいつが笑いながらなだめている。
大抵いつも3に剣を教えているのはあいつだ。4も教えるが、3いわく遊ばれてるみたいでムカつくらしい。実際そうなのだから無理も無い。そのくせいつも本気で付き合ってやる俺には何故かあまり頼んでこないからおかしな話だ。
3が頼りにしてるあいつだって、俺から言わせれば簡単に押し倒せるんだがな。やらないだけで。
二人の様子を見ていた4が横から3に茶々を入れだした。
あのヒゲは大人の余裕だかなんだかで若いのを弄って遊ぶのが好きらしい。暇人だな、と言いたいところだが俺も人のことは言えない気がするので忘れる。
案の定、若さ故熱しやすい3が4とビリヤードで勝負することになったようだ。負けたほうが今日の昼飯全員分奢りとは、参加してない俺とあいつは得をした。
どちらにしろその金の出処は殆ど同じような気もするが。
相変わらず電話は鳴らないが、金はないし、4人もいちゃ消費も早いし、片っ端から来た依頼を受けるしかないか。
賑やかな声をBGMにそんなことを思っていると、3にバトンタッチしたあいつが俺のほうへやってくる。
手元に落とした視線の外から近づく、聞き慣れた笑い声とブーツの音。
まるでそこが戻るべき場所であるかのように、当然のごとく机に腰掛けて。
3と4の勝負を眺めながら、のんびりと他愛も無くお前が話しかけてくる。
そして俺は、もとから読んでもいなかった雑誌を閉じるのだ。
そんな日常が、俺は好きだ。