雨の朝

ゆるゆると眠りの底から浮上した初代は、いまだ上がりきらない意識の中でぼんやりと目を開けた。
霞む視界に入るのは昨夜隣にいたはずの彼の姿ではなく、飾り気のない向こうの壁。

(起きたのか…)

歳のせいなのか早起きな二代目は、隣に居る時にしろ居ない時にしろ初代よりも先に起きていることが多かった。
彼が起きているということは朝なのだろうが、窓から差し込む光はか弱く、部屋は夜明け間もないかのように暗い。
その理由は耳に入る雨音がしとしとと物語っていた。
こう暗い朝はなかなか身体が起きないもので、めんどくせえな、と少し身を捩って目を閉じるとすぐに心地よい眠りに誘われる。
そうして夢現を彷徨って、どれくらいか。
意識が完全に落ちる寸前、ぎしりとベッドが沈んだのを感じて目を開ければ、起き出していたはずの二代目の姿。
ベッドに腰掛け、おそらく靴を脱いでいるのであろうその背中に、初代はそろりと手を伸ばした。

「…起きたんじゃなかったのか…?」

寝起きの掠れた声に振り返った二代目は、起こしたか、と伸ばされた手を優しく握る。

「そのつもりだったんだがな」

そう言いながら、一度は抜け出たベッドの中にするりと入り込んだ。
冷たい外気とともに進入してきた身体の温度差に初代は少し身を竦めるが、二代目は構わず腕を回してそれを抱き寄せる。
少し外に出たのか、二代目のシャツには微かな雨の匂いが混ざって、初代の鼻腔をくすぐった。
しばらくそうやって体温を分け合っていると、やがて空気は一つに溶けていく。
先ほどよりも暖かい温もりに三度意識を揺らしながら、初代はぽつりと呟いた。

「雨…好きじゃない、けど…」

ああ、と頭の上で二代目が小さく頷いたような気がしたが、薄れる意識の気のせいかもしれない。

「あんたとこうしてるのは…悪くないな…」

殆ど寝言に近いそれに答えるように二代目が一層強く抱き寄せれば、初代はすりすりと胸に顔を埋めてきた。
そんな珍しく可愛らしい行為に二代目は思わずフッと笑みを零してしまう。これも雨のおかげか、と少し感謝したくなった。
ほどなくして小さな寝息をたて始めた恋人の髪に唇を落とし、彼もまた眠りに向かう。

視界を閉ざし残るのは、降り続く雨音と、愛しい人の匂い。

こんな雨の日は、嫌いじゃない。