口は災いのもと?(3)
「…やったか」
銃弾の雨の中ソファに沈黙した二代目を確認して、銃をホルスターに収める。
当たり前だが、死んではいない。というか(おそらく)弾が当たってもいない。
いわゆる威嚇射撃というやつで、二代目のあれは降参のポーズ。
威嚇にしては激しすぎるとよく三代目から苦情が来るが、これくらいしないと懲りてくれないのだからしょうがない。
現に向こうの壁は銃弾でバキバキになっているものの、あれは後で三代目に修理させるとする。
「ドメスティックバイオレンスは良くないぞ」
むくり、と二代目が身を起こす。
案の定一発も掠っていないようだ。どうせ何発か当たったところで死にはしないが、さすがに血を見るのは気分が良くないから我ながら少し安心する。
「残念だが正当防衛は許されるんだ」
「弾の無駄使い。冗談が通じないなお前は」
「へえ。じゃあもしあそこで俺が『いい』って言ったら?」
「遠慮なく頂く」
「知ってるか?そういうのは冗談って言わないんだぜ」
目も合わせないまま、さっさと立ち上がる。
「ダンテ」
二代目が名前を呼ぶが、無視。
そのまま前を通り過ぎようとすると、座ったままの二代目に腕を掴んで止められる。
「ダンテ」
「そんなに自分の名前が好きか?」
「そうヘソを曲げるな」
「あァ?」
なんでサディストってのは自分の行為を反省しないんだか。まあ、だからサドなんだろうが。
こっちがそっぽを向いてるのをいいことに、ドSが言い募る。
「何をそんなに怒ってる」
自分の胸に聞いて欲しいので、とりあえず無視。
「いつもあれくらい受け入れてくれるだろう」
…なんの事か知らないが、ここは無視。
「この前はもうちょっと進んだろう」
……無視だ無視。
「さっきはあんなに可愛かったのに」
………。
「沢山キスさせてくれただろう。そりゃあ甘くて…」
「あああ黙れコノヤロウ自分でブチ壊しといて何勝手なこと抜かしてんだコノヤロウふざけんな!」
何か思い出し始めたらしい奴に耐え切れず、ついにキレて振り向いてしまった。
喧嘩中とは思えない微笑を浮かべる二代目とバッチリ目が合った瞬間、「やられた」と思ったが、経験上こうなるともう抜けられない。
こいつは恐ろしいくらいに人の本心を引き出し、読み、操る。
その罠にいつもハマってしまうほうも問題だが、悲しいことにこの手の攻防…というより、全てにおいて、二代目は一枚も二枚も上だ。
「ああ、そうだな。台無しにして悪かった」
「ア?!何が…!」
掴んだ手首を支点にして二代目も立ち上がる。
それを目で追う刹那にそのまま触れるだけのキスをされた。
いいようにされて文句を言ってやりたかったが、悔しいことに他人には見せない優しい瞳に絡め取られて出てこない。
不本意にも大人しくしていると、二代目は安堵したような表情を見せた。
「コーヒー淹れて来る。待ってろ」
そう言って軽く頬に触れた後、キッチンに向かって行く。
その後姿を見送りながら一人残されると、なんだかどっと疲れが出てきた。
一度立ち上がったソファに座ってハァと溜息をつく。
ああ、また流されてしまった。
「畜生…敵わねえな」
押しては引いて、まるでドメスティックバイオレンスのそれじゃないか。
ていうかなんで丸めこまれてんだ?
ひょっとしてあれは魔性か?
こう毎回毎回一人勝ちされては腑に落ちない。
しばらく顔をしかめていたが、キッチンから香ばしい薫りが漂ってくるとどうでもよくなってきた。
どうせまたこの隣に座って、腰に手ェ回してきて、なぜか同時に飲み終わって、勝手にキスしてくるんだろ。
あいつが淹れるコーヒーは、いつも俺にぴったりの甘さなんだ。