口は災いのもと?(2)

初代の願いも空しく、文字通り何事もなく時は過ぎていった。
部品の手入れは完了し、あとは組み立てるだけ。
視界の右側からは相変わらず刺さるような熱視線が注がれている。
よくもまあ過去の自分の顔を飽きずに見ていられるもんだなと呆れてやりたくても、あまり人のことも言えないので耐えるしかない。

愛銃を組み立てながら、どうしたものかと初代は思案を巡らせる。
敵じゃあるまいし、ましてや恋人…と言っていいのか分からないが好き合ってる者同士、実際どうするもこうするもないのだが、如何せん押しまくられるのはいつまで経っても慣れない。こんな性格だから反抗心も湧くし、かと言ってこっちから向かおうものならそれこそ相手の思う壺。飛んで火に入る夏の虫としか言いようがない。
結局どちらにしたって押されるのは変わらないのだが、肉体的にも精神的にも敵わない二代目をいかに上手くあしらうかが初代にとっての問題だった。
もっとも、あしらうと言ってもそれは二代目が引いてくれた、と言ったほうが正しいことが多いのだが。

そうこうしているうちに、初代の手の中で二丁の銃は組み上がった。
ガシャン、と作業の終了を知らせる音が響く。

「終わったか」

初代が行動を起こすよりも早く、二代目が動いた。
完全にタイミングを失った初代は、反射的に「え、ああ」と気の抜けた返事をする。いつもながら二代目の行動は予想できず、必然的に受身になってしまうから情けない。

「なら、次はお前だな」
「あ?」

その意味を訊く暇もなく、強い力で身体を引き寄せられた。
さっきまで腰に回されていた左手は背中を支え、今度は右手が腰に添えられる。
時折撫でるように腰や脇腹を行き来するその右手が、もっと上の胸部、ベストのベルトを留めている金具にかかったのを認識して、あまりの早業に抵抗を忘れていた初代も思わず声を上げた。

「おいこら!」
「ん?」

二代目の胸板を押し返しても、好き勝手に動くその手を掴んでも、二代目は一向にお構いなし。むしろそれはそれは楽しそうに目が笑っている。さすがサディスト…と感心している場合ではない。

「何してんだよ!」
「お前に触ってる」
「んなの見りゃ分かる!」

白々しく答えるんじゃねえよ、という非難の言葉は発せられる前に重ねられた二代目の唇の奥に呑まれてしまった。

正直言ってこれくらいのスキンシップは、ある。押し倒されてこのベストを剥がされたこともあるし、つい先日なぞインナーの中に手を突っ込まれて腹を直接揉まれたくらいだから、認めたくはないが日常茶飯事と言えなくもない。
それに、それで「我慢」してもらっているという負い目も少なからずある。
ではあるが。
従順にしてやれるほど大人でも素直でもなく、彼を信用していないわけではないがその先の可能性を考えられないほど子供ではない。

「んっ…は!このっ…よせって!」
「そんなに暴れるな」

口を塞がれていた間に、胸の3つのベルトは全て外されていた。
ちくしょう楽しそうな顔しやがって。二代目の余裕が頭にきた初代は、目の前の端正な顔をミシリと掴んで押しやる。

「あんた…!やっぱり強引じゃねえか!」

その言葉に二代目は少し前の出来事を思い出し、ぎりぎりと掴む初代の手を引き剥がしながら少しだけ考える素振りを見せた。
やがてまっすぐ視線を合わせたかと思うと、にやりと笑みを浮かべる。
初代にとってあんまりいい思い出のない種類の笑み。
しまった、また何かろくでもない変換しやがったな、と気づいてもそれはいつも後の祭。

「わかった。つまり、」
「いや、なんでもない。黙ってくれ」

もちろん二代目が黙るわけがない。

「前もって言えば、許してくれるんだな」
「誰がそんなこと言ったよ!」
「意外と大胆なんだな。それなら、」
「なんであんたはいつもそうなんだ…」

初代は泣きたくなった。二代目は構わず続ける。

「お前の(ピーー)を(ピーー)して(ピーー)したいんだが、いいか?」
「いいわけないだろうがーーー!!!」

調整したての愛銃が早速火を噴いた。