口紅を塗る前に
(*´ε`*)チュ-
描いてるうちにこの状況を考え始めてSSを付けたくなったので短く書きました。いつもみたいにご想像にお任せもいいけどたまには筋書きがあるのもいいかと。改めて投票ありがとうございました!
寝返りを打つと同時に覚醒したダンテは、もうすっかり陽が昇っている窓に目をやった。眠りの浅い男が珍しく夢も見ずに熟睡したらしい。
昨晩隣にいたはずの彼女の姿がないことに気がついたが、すぐに足音と寝室のドアが開く音がしてなんとはなしに目を閉じた。それを知らないトリッシュはダンテの寝返りで乱れた毛布をかけ直し、頬に軽くキスを落とす。シャワーを浴びてきたらしい彼女の香りがほのかに鼻をかすめ、ダンテは目を開けるも、ベッドの端に座って背を向けたトリッシュはまだ気づかない。そのまま長い金髪を梳き、バスローブを落とした白い肢体に漆黒の衣服が纏われていくのをダンテは後ろから眺めていた。
きっとまた、ダンテが声をかけなければこのまま黙ってふらりと出ていくのだろう。もとから「今受けてる仕事で聞きたいことがあるし近くに来たついでに帰ってきてみただけ」と言っていたが、場合によってはダンテよりも悪魔に詳しい彼女がわざわざ尋ねる必要のあることなどさしてなく、彼女なりに口実を用意しているのだと思うといじらしくもあった。
「…あまり綺麗にするなよ。悪い虫がついたら困る」
化粧を始めたその背に向けて言う。眠っていたはずの彼にいきなり話しかけられたにも関わらず彼女は驚く素振りも見せず、振り返ることなく言葉を繋いだ。
「もうついてるかもよ?」
「だとしたらここに帰ってこないはずだけどな」
「お見通し?つまんないわね」
ふふ、と笑いながら、睦言の間にも作業は進んでいく。化粧の工程はよく分からないが、彼女が口紅を手にした時、ダンテは徐に起き上がってその後姿を抱きすくめた。
「ちょっと!」
慎重さを要する場面で揺らされたトリッシュの非難の声にも構わず顔を引き寄せる。まだ何も纏っていない彼女の柔らかな唇を食むように、甘く吸い付く感触を求めて何度も重ね合わせた。
「…どうしたの」
怪訝そうに、しかし優しく、いまだ離れがたい距離のままでトリッシュは問う。いつものように冗談を言って笑い合うのは簡単だが、今日はそうはしなかった。
「まだ…もう少し、行かないでくれないか」
ダンテの言葉に彼女の青い瞳が揺れる。驚きと、おそらくそれだけではない感情が視線を逸らさせる。
「あなたにそんなこと、言われるなんて」
伏し目がちにはにかんだ彼女の頬がほのかに染まっているのは、化粧のせいではなかった。
- 2022.03.26
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